大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2426号 判決

控訴人らは、本件賃貸借についてはその目的土地の売買価格よりも高価な一万円の権利金を支払い、また賃料も当時としては高額の月五百円と定められたのであつて、このことからしても右賃貸借は一時使用を目的とするものでないことが明白であると主張するから考えて見る。昭和二十一年二月当時の一万円は相当巨額な金員といわなければならないから、仮に当時被控訴人に本件換地前の土地を他に売却する意思があつて、これを売りに出した場合に果して一万円で買手が付いたか否かは甚だ疑問であるけれども、被控訴人には当時これを売却する意思は毛頭なく、右土地についてはいわば相場があつてなかつたようなものであるから、控訴人らの右権利金に関連しての立論は必ずしも当をえたものではない。本件賃貸借のように賃借人の再三再四の懇請によつて実現した場合に、賃借人が賃貸人に通常の場合以上の経済的利益を提供することになるのは人情であると同時に経済原則に従うものであるから、このような場合になされた利益提供(権利金の提供はこの一種である。)の意味を正解するがためには、利益提供者の主観的事情を看過してはならない。かような見地から本件を見るに、当審における証人渡辺ハル、中川誠司の各証言、当審及び原審における控訴人兼控訴会社代表者阿部義男尋問の各結果(原審の分は第一回)の一部、原審における検証の結果と昭和二十一年二月当時が終戦後日が浅く、社会秩序も乱れ勝ちで短期間に巨富を獲得する者も往々にして見られた事実(このことは公知の事実である)とを総合すると、控訴人阿部は本件賃貸借当時一般の人が血眼で探し求めていた飴、パン等の製造販売をしその商売はかなり繁昌しておりこれを本件換地前の土地のような長岡市有数の繁華街で行えば短期間に巨富を獲得することは必ずしも夢ではないと考えていたことが窺われる。そうすると、控訴人阿部が本件のような経過で右土地を被控訴人から賃借するに当り一万円の権利金を支払つたからとて、その賃貸借を一時使用のためのものではなくて普通の賃貸借と認めなくてはならないという程のこともなく、また本件賃貸借における賃料の定めが高額であつたという点に至つては、賃料が高額であることは一応これを肯認しなければならないが、これは、かえつて賃貸借が一時的のものであることを物語るものともいえるであろう、けだし長期の賃貸借にあつては賃借人は高額の賃料ではその負担に堪えないから、賃料は適正なところに落ち付く傾向にあるものであるから、控訴人らの右主張は採用しない。いずれにしても本件賃貸借を示す甲第一号証が法律の専門家である弁護士が関与して作成されたものであることから考えれば甲第一号証に記載された文言は厳格に解釈するのが相当であつて、叙上控訴人らの主張事実は本件賃貸借は一時の使用を目的として締結された土地の賃貸借であるとした原審の認定を覆へすことはできない。

(岡咲 田中 脇屋)

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